パートナーの精子は大丈夫?…「頭部に空胞」「尾がちぎれ」隠れた異常が不妊の原因に

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パートナーの精子は大丈夫?…「頭部に空胞」「尾がちぎれ」隠れた異常が不妊の原因に
いざ夫婦で妊活してるが、なかなか難しい…。
そんな時、女性は自分が原因だと思い込み、申し訳ない気持ちになっていませんか。

ちょっと待ってください。
妊娠は二人の身体のこと。
女性だけが原因とも限らないのです…!

最新の研究によると、男性の「精子」に問題があり妊娠できていないことが明らかになってきています。

今回は、精子研究に長年携わってきた東京歯科大学市川総合病院(千葉県市川市)・精子研究チーム5人が共同執筆されている連載をご紹介させていただきます。
現在の不妊治療の主流は、精子や卵子、受精卵を体の外で扱い、人工的に受精や妊娠を促すというものです。難しい医学用語で「生殖補助医療(assisted reproductive technology=ART)」と呼ばれます。

ARTのTはテクノロジー。
私たちのチームは慶応大病院産婦人科、泌尿器科の男性不妊班がルーツであり、「ヒト精子取り扱い技術」を研究してきました。聞き慣れない言葉ですが、具体的には、授精に使う精子を精液から選別し、さらに、その精子の機能や形を細かく検査することで、生まれてくる子供の健康につなげようという研究です。

初回は、この連載を通して私たちが伝えたいことの全体像を、コンパクトにまとめてお話しします。
この記事を読んで、家族でもう一度考えてみてください…!

技術の進歩で様々な「隠れ造精機能障害」が明らかに

まず始めにお伝えしたいのは、「不妊は、女性側の問題」とされがちですが、
実は「男性側が原因で妊娠が難しいご夫婦」は、みなさんが思っているよりずっと多いことです。

不妊の原因が男性にある場合、そのほとんどは精巣内で精子をうまく造れない「造精機能障害」です。

工場の製造ラインにたとえて説明しましょう。
①良い精子を造る正常な製造ラインが、生まれつき一部しか精巣内にない場合。

②生まれた後、様々な原因で製造ラインに故障が起きた場合。
原因として、おたふくかぜなどの病気や強い薬の影響などがありますが、もっとも多いのは精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)という血管の異常です。こうしたケースでは、故障の原因と程度により、精子の生産量が減ったり、形態や機能がおかしい不良品の割合が増えたりします。

③精子の設計図、すなわち遺伝子に誤りがある場合。
三つのケースとも、単に生産量が減るわけではなく、造られた精子に様々な異常が表れます。
一つ目と二つ目のケースでは、正常な製造ラインがある程度残っていれば、研究チームが研究してきた精子選別技術が力を発揮します。

三つ目の遺伝子の問題の場合、造られた精子に様々な異常が起き、重症になると精子をまったく造れない無精子症になります。運動機能が正常な精子を選別したのに、高い割合で共通した異常を認める場合、遺伝子の問題が背景にある可能性が疑われ、研究チームでもできることは限られます。

従来の基準では「問題ない精子」でも細かく検査すると・・・

みなさんは、「技術の進歩」という言葉にプラスのイメージを持っていると思います。
病院で検査をするのは、悪いところを見つけるためです。検査項目が増え、その精度が向上すると、今まで見えなかった異常が見えてきます。

従来の基準では「良好」とされてきた精子でも、より細かく検査すると様々な異常が見つかります。
それが治せない異常である場合、それまで医師から「精子は大丈夫です」と言われてきた男性が突然、「妻を妊娠させられない夫」になってしまいます。

精子の頭に穴、ちぎれた尾……精密検査でわかるように

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上の3枚の写真をご覧ください。
左の写真は正常な精子ですが、中央の写真では、ほぼすべての精子の頭部に、穴が開いたように見える「空胞」があります。

電子顕微鏡による拡大写真(下)で見るとよくわかりますが、頭部の黒い部分は染色体が詰まっている部分で、色の薄い空胞部分にはそれがありません。右の写真はややわかりにくいですが、空胞はないものの、尾がちぎれています
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中央と右の写真は、卵子に精子を1匹注入する顕微授精を繰り返しても妊娠しなかった夫婦の精子であり、ほぼ全ての精子に同じタイプの異常がありました。

東京歯科大学市川総合病院・精子研究チームが開発した精子検査によって、こうした「隠れ造精機能障害」がわかるようになってきたのです。

「あなたの精子では妊娠させられない」

このような検査結果を見て、夫はがっくりと肩を落とし、妻は「今まで、こんな精子を卵子に入れていたのですか……」とため息をつくのは酷な話です。不妊治療クリニックでは、これまで「あなたの奥さんはきっと妊娠できる」と言われてきたかもしれませんが、実は「あなたの精子では奥さんを妊娠させられない」というのが真実かもしれないのです。

この連載は、お子さんを望まれているカップルにとって、決して耳に心地よいものではありません。
しかし、不妊治療を受けるに当たり、ぜひ知っておいていただきたい事実ではあります。

引き続き、連載を掲載していきます!
◆東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム◆
兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師

黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長

萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師

中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長

高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長
【参照記事】
掲載元:yomiDr.
URL:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190911-OYTET50005/